講演記録

奥田碩 トヨタ自動車取締役相談役

奥田碩
トヨタ自動車取締役相談役

特別講演

奥田碩 トヨタ自動車取締役相談役

私が本日、頂戴しているテーマであります地球温暖化でございますが、地球上のすべての人々の生活に影響を及ぼす、現在世界で最も重要で、かつ注目されている問題であると、このように認識しております。また、本年から京都議定書の第一約束期間がスタートするとともに、2013年以降の国際枠組みの議論も本格化してきておりますので、まことに時宜を得たテーマであると、このように思っております。

私は昨年末に内閣特別顧問の職を拝命いたしまして、また、本年から福田総理のもとで設置されました地球温暖化問題に関する懇談会の座長を務めておりますので、殊にこの問題に触れる場面が多くなってまいりました。また、私の本業であります自動車業界におきましても、地球温暖化への対応は、社会的責任であると同時に、企業の競争力、さらに言えば、生き残りを左右する非常に重要な課題となっております。本日は、こういった状況を踏まえまして、地球温暖化への対応につきまして、私自身の考えをお話しさせていただきたいと思います。先ほど福田総理がお話しされたのと相当重複しているところがあると思いますが、ご容赦願いたいと思います。

昨年末にまとめられましたIPCCの第4次報告では、世界の平均気温の上昇は、人間活動による温室効果ガスの大気中の濃度が増加することによってもたらされる可能性が非常に高いこと、それから、世界の平均気温は今後も上昇する見込みであること、温暖化は海面上昇のほか、水、食料、生態系や、あるいは人々の健康等に悪影響を及ぼすこと、こういうことが示されました。気温の上昇を抑えるためには、気候変動枠組条約に掲げられております、大気中の温室効果ガスの濃度を安定させる、これを究極の目的として達成する必要がありまして、温室効果ガスの排出量を大幅に削減しなければならないわけであります。

このような中で、安倍前総理が、昨年ハイリゲンダムサミットにおいて、長期目標として2050年までに地球規模での排出を少なくとも半減させることを提案され、G8首脳の間でこれを真剣に検討するということが合意されております。そして、この長期目標については、7月の洞爺湖サミットにおいてもさらに議論が深められると、このように考えております。

世界半減という目標は、非常に厳しい目標であります。ある機関の試算では、仮に2050年の先進国の温室効果ガスの排出量をゼロとしても、途上国において60%の削減が必要になるとされております。これは、これまでのやり方を続けていては、到底達成できない目標であります。その達成のためには、何と言っても技術革新を進めなければなりませんし、また、ライフスタイルやビジネススタイルの変革、国民意識の変革など、世界全体の経済社会の構造を大きく変革しなければならないわけであります。また、経済成長とともに人間活動が活発になると、刻一刻と温暖化は進展していきますので、喫緊の課題と認識して、今からすぐに行動を起こしていかなければならないわけであります。

このように、地球温暖化問題の解決には、世界全体における大規模で早急な取り組みが求められております。世界全体での大幅な削減に向けては、各国の取り組みを促進するような有効な国際枠組みの構築が必要であります。既に本年から地球温暖化に関する初めての国際枠組みとなる京都議定書の第一約束期間がスタートいたしました。この京都議定書は、1997年に京都で行われたCOP3で議決をされたために京都の名がつけられておりまして、日本にとっても非常になじみの深いものであります。そして、それを契機に、先進国、途上国を問わずに世界中に地球温暖化問題への早期対策の必要性を認識させたことや、また、先進国が削減義務を負い、削減対策に一歩踏み出した、こういう点は大いに評価できる点であると、このように思っております。

しかしながら、必ずしも地球レベルでの排出削減の実効性まで考慮された枠組みではなかったように思います。例えば、削減義務を負う国の割合は、世界の温室効果ガス排出量の30%程度しかカバーされていない。主要排出国すべてが削減義務を行っているわけでもありません。急激に成長する途上国の排出量の増加も、当初は想定されておりませんでした。また、国ごとのこれまでの削減努力や今後の削減ポテンシャルなど、数字的な根拠に基づいた議論がほとんどなされないままに国別総量目標がトップダウンで決定されたために、国ごとの削減負担が必ずしも公平とは言えない面もある、このように思っております。

2013年以降の次期国際枠組では、こうした京都議定書で不十分であった部分を改善して、地球レベルでの排出削減を真に実効ある枠組みとする必要があります。私個人としては、特に次の4点を重視すべきであると考えております。

1つ目は、すべての主要排出国が参加するような枠組みとすることであります。先ほども申し上げましたとおり、現在の京都議定書では、削減義務を負っているのは先進国のみでありまして、これは全体の30%程度しかカバーされておりません。COの排出量について見てみると、現在は先進国と途上国がほぼフィフティ・フィフティの割合でありますが、今後急速な経済成長が見込まれるのは途上国でありまして、ある機関の予測によりますと、2050年には先進国が40%、途上国が60%になり逆転する、このようなことが言われております。

確かに、これまで先進国は温室効果ガスの大気中の濃度など話題に上らなかった時代に、多くの国に先駆けて経済成長を果たしたわけであります。このために、その分、削減に努力をしなければならないと私は考えております。しかしながら、途上国の排出量が全体の過半を超える、こういう今後の時代を考えると、地球全体の環境を守るためには、先進国のみが削減義務を負うだけでは不十分であると考えております。気候変動枠組条約の「共通だが差異ある責任」、この原則を踏まえた上で、先進国のみならず途上国も含めて、人類共通の問題に世界が総力を挙げて取り組む必要があると考えております。

2つ目でありますが、経済成長と環境保全を両立させることであります。縮こまったり我慢したりするのではなくて、今後とも豊かさを求めながら、明るい将来を描きつつ地球環境を守っていくということが、地球温暖化対策の基本であると考えております。COの排出量を因数分解いたしますと、いわゆるエネルギーのクリーン度、これはエネルギー供給量に対するCOの排出量でありますが、これとエネルギーの利用効率、これはGDPに対するエネルギーの供給量と活動量、GDPの掛け算であらわすことができると思います。経済と環境の両立を踏まえると、安易に活動量を下げるという選択肢をとるべきではございません。やはり地球温暖化対策は、エネルギーのクリーン度を高めること、つまり、エネルギーそのものの低炭素化を図ること、エネルギーの利用効率を高めることで対応するべきであります。

具体的に申し上げますと、エネルギーの低炭素化とは、電源構成として太陽光などのCOフリーの再生可能なエネルギーや、また、原子力の比率を高めることなどが挙げられると思います。また、エネルギーの利用効率の向上とは、省エネ性能の高い家電、自動車、あるいは住宅等を普及させるということが挙げられます。つまり、エネルギーをいかにクリーンにつくり、また、そのエネルギーをいかに効率的に使うか、こういう大きく2つの対策が重要であります。

3つ目でありますが、主要排出国の間で削減負担の公平性を確保するということであります。先ほども申し上げたとおり、残念ながら、京都議定書では客観的な根拠のないままに目標値が決められてしまったために、簡単に目標をクリアできてしまう国がある一方で、目標を達成するために必死で頑張っている国、この2つが存在するわけであります。主要排出国の実情に応じて削減負担の公平性を考慮した目標を設定しないと、将来にわたり息の長い削減活動に取り組むということはできないと思います。また、削減負担の公平性を確保することは、企業の視点からは、各国間での競争環境のイコールフッティングを図ることにもつながるわけであります。

公平性を確保するためには、目標値を決める前に、まずは主要排出国におけるCO削減の実力をはかることが先決であります。当然のことでありますが、エネルギー効率の高い国はCOの削減の余地は小さくなりますし、エネルギー効率の低い国はCOの削減の余地は大きくなるわけであります。エネルギー効率などの客観的な指標を活用して、削減ポテンシャルを積み上げまして、それに応じて国別の目標値を設定すれば、削減負担の公平性は確保できるものと考えます。もちろん、この際、実際の総量目標との間に差が出てくるということも想定されますが、その際にも、各国の目標値を設定する上でのメジャーとして十分に活用できると考えております。

4番目でありますが、途上国への技術の普及と、また、革新的技術の開発ということであります。経済と環境の両立を図りながら、大幅な排出削減を果たすためには、技術ということが最も重要なファクターとなります。2050年半減、このような高い目標は、これまでの延長線上にない革新的な技術の開発を通じてしか達成はできません。ただし、この革新的技術の開発のためには、ある程度の時間とコストがかかるわけであります。しかし、地球温暖化対策は喫緊の課題でありまして、それまでの間、指をくわえて待っているというわけにはいきません。今できることとして、既存技術を世界に普及させること、つまり、先進国の保有するベストアベイラブルテクノロジーを途上国に広げることで、着実に地球レベルでのエネルギー効率を高めていくことが必要であります。

あわせて、革新的技術の開発ということについても、エネルギーの低炭素化とエネルギーの利用効率の向上、この両面において積極的に取り組む必要があるわけであります。次期国際枠組においては、地球温暖化問題の解決策として、最も期待される技術に焦点を当て、技術開発を阻害することなく、むしろ促進するようなスキームをつくり上げるべきである、このように考えます。

日本政府におきましては、昨年、安倍前総理から温暖化政策の基本方針とでも言うべき、いわゆる「クールアース50」が宣言されまして、それをベースに、本年のダボス会議では、福田総理から具体的な政策を含みました「クールアース推進構想」というものが提唱されたわけであります。

まず、安倍前総理の「クールアース50」では、長期戦略及び中期戦略が示されました。長期戦略では、各国で共有できる地球規模のビジョンとして、2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を現状から半減すること、そのためには革新的技術の開発と、それを核とした低炭素社会づくり、これを進めることなどが提案されております。中期戦略では、ポスト京都の国際枠組みの構築に向けた三原則として、すべての主要排出国の参加、各国の事情に配慮した柔軟かつ多様性のある枠組みの構築、環境保全と経済発展の両立、が提案されました。

また、これをベースに策定された福田総理の「クールアース推進構想」は、ポスト京都フレームワーク、国際環境協力、イノベーションの3項目から構成されております。

1つ目のポスト京都フレームワークでは、日本政府は、今後10年、20年の間に地球全体の温室効果ガスの排出量をピークアウトさせるということを世界に呼びかけると同時に、主要排出国とともに国別の総量目標を掲げて取り組むということが宣言されました。また、目標設定に当たりまして、エネルギー効率などセクター別に割り出し、今後活用される技術を基礎として削減可能量を積み上げまして、削減負担の公平性を確保する、そういうことも提案されております。

2つ目の国際環境協力ということでは、省エネルギー技術の移転によりまして、全世界のエネルギー効率を高め、世界全体で2020年までに30%のエネルギー効率の改善を世界が共有すべきであるということが提案されまして、あわせて、排出削減に真剣に取り組む途上国や、また、気候変動で深刻な被害を受ける途上国に対して手を差し伸べるために、100億ドル規模の新たな資金メカニズムを構築するということ、米国、英国とともに多国間の新たな基金を創設することを目指して、ほかのドナーにも参加を呼びかけるなど、資金支援ということについても提案をされております。