福田康夫
内閣総理大臣
オープニングスピーチ
内閣総理大臣 福田康夫
本日は、「2008年地球環境シンポジウム」にお招きをいただきまして、大変ありがとうございました。
このシンポジウムの副題は、ここに括弧書きがございまして、「温暖化 G8リーダーへの提言」ということです。これは、私に対する提言でもあるわけで、身の引き締まる思いがいたします。
コニー・ヘデゴー・デンマーク気候エネルギー大臣、そして、マーガレット・ベケット前英国外相をはじめとする内外のオピニオンリーダーや実業界の代表や、これほど多くの皆さんが参加し、2日間にわたって地球環境問題について集中的に議論されということですが、その中から新しいアイデアや提案が出てくるというように期待をしております。
G8サミットの開催のちょうど1カ月前ということでございますので、このタイミングをとらえまして、地球温暖化の問題につきまして、日本の考え方を発表いたしたいと思います。
そのポイントは4つあります。
第1は、世界の温暖化ガス排出量を2050年までに半減させることを目標にし、日本としても60ないし80%の削減を目指すことです。
第2は、今後10~20年のうちに世界の排出量をピークアウトさせるために、主要排出国のすべてが参加する実効性のある枠組みを構築する必要があるということです。
第3は、これらの目標を達成するために、革新的な技術開発や、既存の先進的な省エネ・新エネルギー技術の導入・普及がカギを握るということです。
そして第4番目が、低炭素社会を実現していくためには、政府の努力だけではなくて、産業界、そして国民一人一人が、息長くこの問題に取り組んでいくということが必要であるということです。
きょうのシンポジウムのテーマは、「G8リーダーへの提言」ですから、本日は、国際的な戦略に重点を置いて私の基本的な考え方を申し上げます。
まず、地球環境問題に取り組むに当たりまして念頭に置くべきことは、何よりもまず世界全体で取り組まなければこの問題を解決することはできないということです。例えば、今後10年から20年の間に排出量がピークアウトするといった場合には、世界全体の排出量を減少傾向に転じさせることを意味しているわけであります。しかし、2005年のデータを見ますと、現在の京都議定書で排出削減の義務を負っている国々の排出量の合計は、世界全体のわずか3割にしかすぎないのであります。その他の7割を排出している国々の参加なしに、世界全体のピークアウトを確保するということは、これは困難なことです。したがいまして、ポスト京都議定書の枠組みづくりにおいては、先進国が発展途上国以上の役割を果たすことを前提としながらも、主要な排出国がすべて加わった全員参加型の枠組みをつくることが、何よりも必要なわけであります。
では、どうすればすべての主要排出国が加わってもらえるのかという視点が、今後の国際的な議論の過程で優先されなければなりません。全員参加という場合には、第一にどの国も経済成長と両立することが必要です。排出量とは、大ざっぱに申し上げれば、経済活動量にエネルギー効率を掛け合わせたものであります。つまり、排出量を減らすためには、二酸化炭素を発生させない革新的な技術が開発されない限り、経済活動量を減らすか、エネルギー効率を向上させるのか、どちらかしかないのであります。
しかし、他国に対して、経済成長を停止するよう求めることはできるわけがありません。とりわけインドや中国のように急速な発展を遂げている国々や、発展途上国は、「我々にはまだ発展する権利がある」と主張するわけです。これは当然だと思います。
とするならば、私たちがより着目すべきは、どうすれば効率を上げることができるか、こういうことになります。つまり、エネルギーを使ってもできるだけ二酸化炭素を出さないような技術の開発をし、その技術を世界的に普及させることです。これが当面の排出削減のカギにならざるを得ないわけであります。日本は、エネルギーの分野ではこれまで一貫して技術を重視してまいりました。米国や欧州諸国よりもずっと大きな研究開発投資を行ってきました。そして、現在の日本のエネルギー効率は、米国やEUと比べても、より高い水準にあります。今後ともこの分野で世界をリードしていくことが、我が国が果たすべき重要な役割であると思います。
私は、今年1月のダボスの会議で、政府として今後5年間で300億ドルの資金を投ずる「環境エネルギー革新技術計画」を発表いたしました。これは、民間が持つ知恵とかアイデア、それから技術をいかに活用していくかということも考えて提案したわけです。環境・エネルギー分野に加え、今や食糧や水の問題など地球規模の課題の解決に日本が持つ技術を積極的に活用していくことを目的とし、海外にも開かれた「官民合同ファンド構想」というものを具体化するよう関係部署に指示をしたところであります。これらの取り組みの中で生み出される技術とかノウハウを、発展途上国や中国、インドなどの主要排出国に積極的に提供してまいりたいと考えております。
第2に、私は単なるかけ声とか政治的プロパガンダでもって目算のない数字を言い合うだけでは、世界の温暖化対策が進むとは考えておりません。それぞれの国が、確実に現実的に責任が持てるような削減量というのは一体どれくらいなのかを、まずはしっかりと見きわめ、それを国際交渉の基礎とすべきだと考えます。
我が国が提案しておりますセクター別アプローチは、そのための方法論です。最も進んだ技術の導入を進めることで、どこまで削減することができるかを産業別に詳細に検証し、それを積み上げることによって、科学的・技術的に可能な削減量を算出することができるのであります。このセクター別アプローチを用いて、まずは各国の削減可能量を科学的に分析し、どのぐらいの数字になるかという作業を進めるべきです。本年12月のCOP14に、その成果を報告するよう働きかけていきたいと考えております。
セクター別アプローチは、ボトムアップの積み上げ方式ですけれども、この積み上げ方式では、2020年にピークアウトするために必要な削減量を確保できないのではないかといったような指摘もあります。さらに、国別の総量目標について逆にトップダウンで決めるべきだと、という主張もあります。しかし、それぞれの国の実情や過去の努力を無視した目標を押しつけるのでは、全員参加が実現できるのかどうか疑問があります。最初に参加してもらっても、具体的目算もないような目標では、途中で離脱する国も出てきかねないということです。
そのために、私は、まずはボトムアップで科学的・技術的に計算し、世界全体でどこまで削減が可能かということを現実的にしっかりと把握すべきと思います。その合計とピークアウトするために必要な削減量とのギャップを明らかにしたうえで、その差を埋めるための努力として、技術革新の加速化など必要な方策を明確にしつつ、先進国として果たすべき役割、達成すべき目標のレベルを検討してみてはどうかというのが、私どもの考えであります。
我が国は、各国のセクター別アプローチに対する意見も踏まえて、共通の方法論を確立した上で、来年のしかるべき時期に国別総量目標を発表したいと考えています。その際には、基準年も問題になります。先日、「2020年までに、2005年比でEUと同程度の14%削減が可能」という見通しを述べたところ、「なぜ1990年比ではないのか」という指摘を受けました。確かに、EUは90年比で先進国で20%以上の削減を提案しております。しかし、先進国全体の排出総量は、1990年185億トンで、2005年にはやはり182億トンと、ほとんど変わらない。90年比で20%の削減をしたとしても、2020年の先進国全体の総排出量は、148億トンという計算になります。2005年比で同様の計算をしましても、146億トン、ほとんど変わらないんですね。したがいまして、どちらがより厳しい案かを競うかのような議論はあまり意味はなく、どちらがより多くの参加国を募ることができるかどうかということに議論のポイントが置かれるべきです。
そのような視点から、もう一度90年と2005年の状況を比べてみますと、世界全体の排出量の分布が大きく変化しているのであります。例えば、90年から2005年までの15年間で、中国のGDPが3.8倍、インドは2.4倍に拡大しております。それを反映しまして、90年段階ではそれぞれ世界の中国11%、インド3%にすぎなかった排出量が、2005年段階ではそれぞれ19%と4%になりました。中国とかインドなど経済成長が著しい国や、これから成長の果実を得ようとしている発展途上国に対して、90年をベースとして排出量の削減を求める、そういうことでよいのかどうか、よく考えなければいけないと思います。私としては、今後ともさまざまな意見に謙虚に耳を傾けていくつもりでありますけれども、全員参加を基本に、実効性のある仕組みをつくっていくことを全体の基本認識として、このシンポジウムでも話し合いが行われるということに期待いたしております。
以上、幾つかの基本的な考え方を申し上げました。我が国としては、ポスト京都に向けた枠組みづくりにおいて、今後とも環境先進国としてのリーダーシップを発揮してまいりたいと思います。来月には北海道洞爺湖サミットが開かれます。来年末のコペンハーゲンでの国際的な合意に向けた第一歩として、世界の首脳たちと実りある議論をしてまいりたいと考えております。その際には、このシンポジウムのご提言などもよく参考にさせていただきたいと思っております。
ご静聴ありがとうございました。




