小島敏郎
環境省地球環境審議官
総括報告
小島敏郎 環境省地球環境審議官
環境省の地球環境審議官の小島でございます。
朝日新聞の地球環境シンポジウム「温暖化 G8リーダーへの提言」、2日間にわたりましたが、第1日目に「温暖化 G8リーダーへの提言」として講演とパネルディスカッションがありました。2日目、きょうは「エコ・フロントランナーの挑戦」ということで、低炭素社会への挑戦、生物多様性の未来、アジアの水問題が議論されました。
地球温暖化、生物多様性、水問題、これは相互に絡み合う1つの問題のそれぞれの側面であります。気候変動は生態系に重大な驚異を与え、かつてない洪水と干ばつ、乾燥をもたらすことによって水問題ももたらします。生物多様性は、気候変動によって生態系そのものが大きな影響を受けるため、開発による危機、人間のケアがなくなることによる危機、外来種や化学物質による危機に加え、気候変動にどう適応していくか、気候変動を緩和するためにどう保全していくかなど、地球温暖化と生物多様性の両方の配慮の重要性が今後ますます増していくことと思います。
水問題は、気候変動問題における適応対策の中心的課題です。マングローブや珊瑚礁は災害時の防波堤になります。ネパールの氷河湖、多数の台風の日本への上陸、アメリカのハリケーン・カトリーナ、ミャンマーを襲ったサイクロン、オーストラリアの記録的干ばつ。そして、きょうのTVニュースでも報道されていましたが、アメリカ中西部の洪水とカリフォルニアの大規模な山火事。気候変動に伴って起きる気象災害の兆しとも言える災害が数多く起こっております。
なぜこのような問題が起きているのでしょうか。今回議論された地球温暖化、生物多様性は、1992年のリオ・サミットで条約の調印が行われました。16年前のことです。この16年間、問題は解決に向かうどころか、深刻の度合いを増しております。なぜか。
1992年ごろは、世界経済は脱工業化の道をたどって発展すると言われておりました。しかし、世界は大きく変化しました。これまで途上国と言われてきた幾つかの国が新興経済国として世界経済の主要なプレーヤーとして登場してきました。世界の5本の指に入るGDPを持ち、世界最高額の外貨準備を持つ開発途上国の登場であります。新しい世界の工場の登場であり、大きな人口を有する国の国家建設による大土建国家の登場であります。
世界は一変しました。鉄、セメント、電力の大量消費、食料の大量消費、膨大な環境圧力が生じています。世界は無秩序なエネルギー争奪戦、資源争奪戦、炭素争奪戦をするのでしょうか。それは、人災による世界の破局的な状況を招きます。そういう世界を私たちは望んでおりません。
私たちの目指す世界は、連帯の思想によってエネルギー制約、資源制約、炭素制約の時代の新しいルールをつくって、将来にわたって発展を続けていくことができる世界であります。
私たちは気候変動問題になぜ取り組んでいるんでしょうか。それは、気候変動がもたらす影響が人類の経済活動にとっても、食料の確保にとっても、生態系にとっても極めて大きく、破局的なものとなるからです。対策を講じないときのコスト、いわゆるコスト・オブ・インアクションは甚大なものであり、環境難民を生み、世界を不安定にします。ベケットさんが強調したように、気候変動問題は安全保障の問題として考えるべきでしょう。いわゆる気候安全保障、クライメイトセキュリティーとして把握されるべきです。
しかし、現実は、対策を講じたときのコスト、コスト・オブ・アクションの心配が先に立っています。それは、対策を講じる人と被害を受ける人が異なるからです。対策を講じる人は現在の人で、被害を受ける人は将来の人、私たちの子供であります。対策を講じる人は、温室効果ガスを大量に排出している豊かな人。途上国に住んでいても豊かな人であります。被害を受ける人は貧しい人です。このことを放置し、世界の不均衡がますます拡大すれば、深刻な紛争が生じ、環境難民も発生します。私たちの安定的な将来はありません。
気候変動に対処する上で重要なことは、目標の設定であります。IPCCの科学的知見は既に示されています。究極目標については、国際的なアジェンダになっていませんが、EUは2度C目標を掲げております。しかし、CO2濃度は既に280ppmに達しているので、この達成は難しいかもしれません。せめて2度から3度Cまでの間に抑えて、究極的に2度を目指すということになるのかもしれません。
2050年目標は、世界全体で50%削減ということが既にアジェンダになっています。G8やCOPでの合意が得られるかが課題になっています。
ピークアウトは新しいアジェンダです。福田総理は、今後、10年から20年の間に世界全体の排出量をピークアウトさせると提案し、IPCCは、2度から3度のシナリオで2015年または2020年までにピークアウトすべきだとしています。いずれにしても、ピークアウト目標は2013年以降の枠組みの目標と近接した目標になります。
トップダウンとボトムダウンの話もありました。2050年半減、ピークアウト目標をどのように達成していくのか。この目標は世界全体の目標ですが、それを実現するには、各国が目標を設定して実現をしていかなければなりません。これはトップダウンアプローチであります。具体的に削減していくには、それぞれのセクターでどれだけ削減できるか、削減量の積み上げを行っていかなければなりません。これがボトムアップアプローチです。
ボトムアップアプローチで削減量を積み上げるだけではピークアウトを達成できない可能性が高く、その場合には、ピークアウトを達成するためのトップダウンアプローチの目標とのギャップを埋めなければなりません。このため、さらなる削減を実現するための新しい制度の導入が不可欠になります。
全員参加の2013年以降の枠組みはどういうものになるでしょうか。先進国は、法的拘束力ある国別目標を掲げてさらなる削減を行うことになるでしょう。途上国、なかんずく新興経済国の約束はどういうものか。先進国の間でも十分議論されていません。このシンポジウムでも議論がありませんでした。新興経済国の約束には、内容と形式があります。
まず、内容です。新興経済国も国別総量目標でしょうか。それとも、特定のセクター目標、再生可能エネルギー導入目標、森林保全目標でしょうか。あるいは、これらの組み合わせでしょうか。
次に、形式です。それは法的拘束力のある目標でしょうか。アメリカの研究所が言うようなノールーズターゲットと言われる目標でしょうか。あるいは、初期の経団連自主行動計画のような一方的な宣言による削減計画でしょうか。
いずれにしても、COP15では、共通だが、差異のある責任と能力に応じて合意がなされ、その合意が世界全体の温室効果ガス排出量のピークアウトを実現する水準に達していることが必要です。
公平性についても議論がありました。途上国の貧しい人々にとっての公平性は、豊かな人と貧しい人の格差の是正であります。対策を講じないことによるコストを貧しい人が負担することは、公平性に反します。先進国や小排出途上国の温室効果ガスを多く出している人の公平性は、削減するためのコストです。1人当たり排出量が公平である、GDP当たりの排出量が公平である、生産量当たりの排出量が公平である。さまざまな公平性の基準が世界にあります。日本のセクター別アプローチも、世界的に見れば公平性の基準の1つです。公平性の議論は、来年の交渉の大きな議論となるでしょう。
公平性については、途上国から先進国に対して歴史的責任を問う声があります。それには耳を傾けていかなければなりません。同時に、これからの温室効果ガスの排出量を考えると、新興経済国は、排出する温室効果ガスに対して未来の責任があると思います。
技術と制度です。温室効果ガスを削減する技術は3つあります。需要サイドでは省エネルギー技術です。供給サイドでは、再生可能エネルギー、原子力技術です。エンドオブパイプでは、CCS、いわゆる炭素の隔離貯留技術であります。日本はこの3つの技術のどの分野で優位に立っているのでしょうか。冷静に評価をする必要があります。
究極目的や2050年目標の達成には革新的技術が必要ですが、ピークアウト目標を実現するには、既存技術、もしくは実用化できる技術をフルに活用することになります。それも短期間に普及させるという時間との競争をしなければなりません。
そのために何が必要か。普及を促進する革新的な制度であります。革新が必要なのは技術だけではありません。制度にもイノベーションが必要です。技術を開発するのは技術者ですから、政治や行政がなすべきことは、目標を設定し、その目標を達成するために必要な制度をつくり出すということかもしれません。排出量取引制度、炭素税、固定買い取り制などは革新的な制度の例であります。革新的技術の開発には反対者はいません。しかし、革新的制度の創設には多くの反対者がいます。
しかし、いずれにしても、自主行動計画では2050年、60%から80%の大幅な削減を行うことはできません。低炭素社会をつくっていくには、革新的な制度が不可欠であります。
今回のシンポジウムでは、問題解決の困難性が指摘されましたが、同時に、未来への希望も示されました。日本は、高度成長から2度の石油ショックを乗り越えて、高いエネルギー効率の国家を築き上げてきました。しかし、私たちが直面している現実は、それとは全く違うものであります。今必要なことは、世界には石油は幾らでもあるが、大切に使おうという対策ではありません。化石燃料に依存して発展してきた産業革命の時代から、再生可能エネルギーや原子力などの非化石燃料をエネルギー源とする時代への転換であります。私たちは、過去から、そして未来を見詰めて新しい文明を開く入り口に立っております。その道は希望に満ちていることを信じて総括報告を終わります。ありがとうございました。(拍手)




