講演記録

パネル討論「今そこにある危機」

司会:船橋洋一 パネリスト:モハン・ムナシンハ、温波、ジェームズ・スタインバーグ、西田厚聰

船橋洋一 朝日新聞社主筆

船橋洋一
朝日新聞社主筆

モハン・ムナシンハ IPCC副議長

モハン・ムナシンハ
IPCC副議長

温波 国際NGO・パシフィックエンバイロンメント中国プログラムリーダー

温波
国際NGO・パシフィックエンバイロンメント中国プログラムリーダー

ジェームズ・スタインバーグ 米・テキサス大学公共政策大学院長

ジェームズ・スタインバーグ
米・テキサス大学公共政策大学院長

西田厚聰 東芝代表執行役社長

西田厚聰
東芝代表執行役社長

船橋

これから4人の方々にお1人ずつ15分、それぞれのお考えをまず承りたいと思います。それでは、温波さん、よろしくお願いいたします。

同胞の中国市民を代表し、日本の方々、日本政府、そして国際社会に、非常に寛大なる支援を最近の中国の大地震での救援活動でしていただいたことに御礼申し上げます。

地震の写真、被災者の写真、そして学校の子供たちの写真をお送りいたしましたテキサス州ヒューストンの友人が、それに対して返事を送ってくれました。子供たちの写真の中には、希望を示すものもあれば悲劇的なものもある、そしてテキサスのこの友人は、涙が止まらなかったと言っていました。写真が示す希望に感動しつつも、自分の2歳の息子のことを考え、不安にならざるを得なかった、将来を考えると、そして息子に何かが起こったとしたらどうしたらよいのかわからないとこの友人は言っていました。

私たちは皆、子供を大事に思っていますし、よりよい世界を子供たちのために残したいと思っています。しかし問題は、私たちはほんとうにそうしているのかということです。気候変動は、今台頭しつつある危機です。そしてそれは実際に見られております。中国は既にその影響に悩まされています。

毎年のように中国の北東部では、何十万人もの気候変動による難民が発生し、干ばつと砂漠化によって次々とさまよわなければならない状況です。また、冬の嵐では、大雪のために停電となり、交通機関も機能不全に陥りました。ちょうど中国の旧正月に当たっておりましたので、多くの旅行者が5日5晩をバス、列車で過ごさなければいけないという状況でした。そして中国政府としても、大規模に軍を動員しこれに対応しなければならなかったという状況です。例えば洪水でもそうです。また、中国の北部では激しい干ばつ、そして水資源の不足のために深刻な生態系上の脅威となっています。地球温暖化によって感染症の発生も中国では増えています。それ以外にも多くの環境問題があります。したがって、中国ほど深刻な問題に直面している国はほかにはないのではないかと思われるほどです。

多くの人々が中国を批判します。中国は既に、おそらくアメリカを越えて温室効果ガスの世界最大の排出国となっているとして批判されています。確かに、中国は大きな排出をしているでしょう。しかし、また同時に認識しなければならないことは、温室効果ガスの排出というのは、中国が世界の工場であるところからも発生しているのです。

中国は、国際市場の中で工場としての役割を果たしています。多くの欧米の企業が、中国の工場を使って製造を行っています。そして私たちは、このメイド・イン・チャイナの製品を買っているのですが、そのたびに消費者一人一人が温室効果ガスの発生に一役買っているということになります。

また、中国は以前からその製造能力を高めることを誇りを持って推進してきました。しかし、世界の工場、そして世界の台所となっています。そしてさまざまなクイジン、料理をつくっています。また、そのための廃棄物も増えています。生ごみも増えています。

そして1.5メートル海面が上昇しますと、今世紀末に7,200万人以上が環境難民となってしまうと言われています。

国際会議では、中国政府はしばしば、1人当たりの排出量で見れば中国はまだ排出量は少ないと主張しています。13億人の人口で割り算をすれば、何であっても量は少なくなるでしょう。しかし、中国国内で見ますと、省の間にも大きな格差があります。世界で最もひどい排出を行っている国と匹敵するような排出をしている省もあります。また、私が住んでいる地域社会の中では、自転車に乗っている人もあれば、大型SUVに乗っている人もあります。1人当たりの排出量で考えますと、大型SUVの所有者の排出量は多いでしょう。ほかの人たちが少ない排出量で済んでいるために、そのように大型SUVを購入する権利を行使しているとも言えます。中国の中にも排出量が多いビッグポリューターもあります。そして地方でも、また地方の環境団体もこのようなビッグポリューターに対策を講じようとしています。そして地域環境を守ろうとしています。

また、中国の指導者たちもこういった課題を認識していると私は信じています。世界の指導者の中で、中国の指導者は忙しくこの直近の問題に対応しようとしています。そして中国の指導者ほど多くの頭痛の種に悩まされている指導者はないのではないかと思います。また、温室効果ガスの排出の解決策を見出そうともしています。しかしそれは、成熟した、そして積極的な市民社会なくしては実現できないものです。積極的な市民社会なくしては、そして政府職員の環境面での説明責任を問うような市民社会がなければ、実際に実現をされることはないでしょう。

そして、どの国でも国民は政府よりもよく理解をしていることが多いと思います。そして光栄にも日本でそのような大変賢明な、そして思いやりの深い若い人たちに出会うことができました。

地球を大事に思う人々、そして地球市民としてよいことをしたいと考える人々はサポートをされるべきです。日本のような豊かな社会はぜひそうするべきでしょう。十分にサポートをされていない団体があるとすれば、残念なことです。

また、長年ピースボートにかかわっている人たちからも聞きましたけれども、中には中国の環境について研究をしている研究者もあり、それによって貢献をしている、そして中国の努力をサポートしようとしている方もあると聞いています。このように市民レベルでのサポートも必要です。中国ですら排出権、排出量削減目標を立てています。

そして国際社会では、中国は大量の排出をしていると批判されています。しかしながら、市民は、環境のフットプリントを小さくしたいと願っています。中国の国民にとっても排出量を増やすことは利益にかなうものではありません。工場、そして産業を誘致すると、地球にとって大きな問題になるだけではなく、地球レベルだけではなく地域レベルでも直近の脅威となっています。例えば、がんの患者が増えています。川沿いにがんの患者が多発しています。産業のためです。自由に汚染をしています。しかも炭素を排出しています。ですから、中国の国民は実はもっと多く排出したいとは思ってはいません。しかし、国家主義的な考え方から中国政府はより強い権利を主張しようとしています。そして排出量が増えるというのは人間の発展の経過であるとしていますが、これは疑問です。

中国の歩むべき道のりとして、現在のような道のりをなぜとるべきなのでしょうか。ほかの国々の後に倣うのは簡単なことだからです。中国は、ほかの先進国の経済的な成功を目の当たりにし、それに倣いたいと考えています。例えば、自動車産業を推進しようとしています。経済を支援する重要な産業として育成しようとしていますが、自動車文化は中国の文化の一部でしょうか。なぜ自動車が成功の象徴ととらえられなければならないのでしょうか。中国国民は、例えば東京のイメージを見ていますし、ヒューストン、ニューヨーク、ロサンゼルスのイメージを見ています。高層ビルが多い、そして多くの車を使っている、これこそが繁栄だと考えています。こういった現実に直面し、認識しなければいけないことは、欧米諸国は間違った道を歩んでしまったのではないかということです。そしてそれを鏡として中国は映し出しているのです。欧米社会から学ぼうとしている、そして現在の中国があらわしているのは欧米社会が間違った道を歩んでしまったということなのです。

しかし、中国は大国であるので、破壊的な影響があるかもしれないと言われます。私たちが暮らしている地球というのは有限な存在です。そして、宇宙飛行士を送り出すような技術があり、また、ほかの星から資源を地球で活用するために開発しようとする技術すら持とうとしています。新聞で読みましたが、車の燃料として例えば魚を使うとか、あるいは化石化した魚を使うとかいうこともできるでしょう。石油も海洋生物の化石燃料、そして石炭というのは木の化石燃料です。そして現在、世界は大手のエネルギー会社の態度に左右されています。従来とは違う開発経路が必要でしょう。例えば太陽光発電です。日本は賢明にも、そして国旗も太陽を象徴として使っていますが、日章旗となっていますが、太陽のエネルギーを活用することができるでしょう。これは途上国にとっても学ぶことができます。そして例えば貧困を撲滅する、教育水準を上げる、病気をなくす、女性の権利を向上させる、また、途上国が衛生をよりよくし、生活環境をよりよくすることを支援することによって代替的な発展経路を示すことができると思います。

私たちは、この惑星を急速に失おうとしています。何か起こったとしたら、もう取り返しがつかない状況になってしまいます。この環境問題、気候変動は、国の優先順位として、そしてそれだけではなく個人の問題としても取り上げていかなければ、時間がなくなってしまうでしょう。

船橋

温波さん、ありがとうございました。温波さんは中国のNGOの現場でずっと活動していらっしゃる方でございます。

つづいて、スタインバーグさん、お願いします。

スタインバーグ

10年ほど前のことですけれども、ゴア副大統領及びスチュアート・アイゼンスタットが京都で交渉をしていたのですけれども、最後の非常に緊張した瞬間がありました。私はホワイトハウスにいたのですけれども、果たして合意なんて可能なのかと思いました。半面で、失敗した場合にどのようになるか、いかに重要で複雑な問題になるかと考えたことをよく覚えております。アメリカでも大変でありました。クリントン大統領と話をし、「合意に達せよ」という命令が下ったのです。非常に重要な決断だったと思います。といいますのも、根本的なアメリカの果たす役割というのがこの気候変動の議論に関して反映されたと思うのです。アメリカの役割があると思うのです。ここで少し時間をいただきまして、そのアメリカでの議論についての話をしたいと思います。

確かに、アメリカ人がアメリカの話をするというのは、自分の国の話だけという形になりそうなのですけれども、しかしながら、解決策が見つからなければ、そしてアメリカが関与する、そしてアメリカが責任を果たす、リーダーシップを果たすような合意ができなければ、ほかの国々のすばらしい努力が無になってしまう可能性があるわけです。それだけでは十分ではなくなる可能性があるわけです。それだけこの危機というのは非常に大きいわけです。喫緊に迫っているわけです。そこで、その議論がどんなになっているか、アメリカの話をしたいと思います。

皆様方はちょっとどきっとされるかもしれません。いかに大変なのかということに気づかれるかもしれませんけれども、しかしながら、希望もあるということを申し上げたいと思うのです。つまり、私たちが進んでいる方向というのは、より建設的な役割がアメリカにもたらされるということです。アメリカの戦略がこれからさらに進展につながる可能性があるということを申し上げたいのです。

ここで思い出さなければいけないのは、どうして今、アメリカの立場がこのようなところに来てしまったのかということです。非常にゆっくり進んでまいりました。非常に複雑な動きをここ20年間アメリカはしてきたのです。覚えていらっしゃる方もいらっしゃると思いますけれども、例えば1992年、リオ・サミットがありました。そのときは、当時のブッシュ大統領(父)が最終的に出席するのを決めたのはリオ・サミットの4日前であったのです。そこで初めてこの気候変動の問題に対応しようというプロセスが始まったのですけれども、その5年後、ゴア副大統領がアメリカを代表して交渉に当たりました。あの京都の会合です。しかしながら、その数カ月前にどういうことがあったかといいますと、アメリカの上院で投票にかけられた法案がありました。これは悪名高いバード・ヘーゲル修正法案というもので、上院が95対ゼロで、アメリカは合意に調印するべきではないということになったわけです。つまり、すべての国々が参加しないような合意にはアメリカは調印してはならないということが通過してしまったのです。その4年後、現在の大統領が、アメリカとしては京都プロセスには関与しないということを決めまして、そのために棄権をしてしまったわけです。つまり、リーダーシップの役割を演じないということになってしまったし、そのために我々の同盟国の信頼も損なってしまったのです。同盟国たちは一生懸命前進するために努力をしているのに、アメリカはコミットしないということを言ってしまったわけです。ですから、これはほんとうにアメリカのリーダーシップのどん底の年でありました。

しかし、それ以来、明るい道のりも開けてきたのです。例えば2003年に、マケイン・リーバーマン法案が提案されました。初めて提案されたのですけれども、キャップ・アンド・トレードのアプローチをとろうということで、上院での議決で賛成票が44票入りました。そして一番最近のバリで開かれた気候変動の会議ですけれども、世界中からいろいろな圧力がかかりまして、アメリカの代表団が最終的にアメリカもこの解決策の一部に加わらなければいけない、単に問題の一部であってはならないと認識したわけです。最近、ほんとうに最近の話ですけれども、非常に大きな、活発な議論がアメリカで展開されております。上院で新しい法案がやはり気候に関して出されました。ウォーナー・リーバーマン法案と呼ばれるものであります。こちらは非常に大きな、前向きな前進となっております。アメリカの政策が進むと期待されたのですけれども、残念ながら通過はしませんでした。ただやはり、ここで議会での認識が高まったということが言えると思います。この問題に対応することが必要だという認識が議会で高まったのは間違いありません。

今、分水嶺にあると思うのですけれども、いいニュースとしましては、今度、アメリカで大統領選があります。90年代以降初めて2人の大統領候補の2人ともがグローバルな体制にコミットを持っています。かなりの行動を国内でもとると2人とも発言をしています。これは初めてのことです。ですから、可能性としましては、まだ確実ではないのですけれども、アメリカが徐々に役割を演じる道を進んでいる。つまり、世界が期待しているようなアメリカの役割を演じる道を進んでいるということが言えるわけです。この問題に対応するためにはそれが必要なのです。