講演記録

テーマ1低炭素社会への挑戦

司会:浜中裕徳 パネリスト:カール・ガルディーノ、モーゼス・ツォン、末吉竹ニ郎、河内哲

浜中裕徳 (財)地球環境戦略研究機関理事長

浜中裕徳
(財)地球環境戦略研究機関理事長

カール・ガルディーノ 米シリコンバレー・リーダーシップグループ代表執行役員(CEO)

カール・ガルディーノ
米シリコンバレー・リーダーシップグループ代表執行役員(CEO)

モーゼス・ツォン 香港・アジアパートナーズ会長

モーゼス・ツォン
香港・アジアパートナーズ会長

末吉竹ニ郎 国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)特別顧問

末吉竹ニ郎
国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)特別顧問

河内哲 住友化学代表取締役副社長執行役員

河内哲
住友化学代表取締役副社長執行役員

浜中

本日の第1セッションは、気候変動・低炭素社会への挑戦という題で行いたいと思います。

皆様よくご存じのとおり、今週月曜日、9日ですけれども、福田総理大臣は「『低酸素社会・日本』を目指して」と題するスピーチを行いまして、そこで温暖化の進行によって将来世代をこのままでは危機的な状況に追い込みかねず、そうならないために、2050年までに世界全体で二酸化炭素の排出量半減を目指さなければいけない、日本は先進国としてより厳しい責任を受け持つということで、2050年までに現状から60ないし80%の削減という非常に野心的な目標を掲げ、そこにそれを実現するために、化石エネルギーへの依存を断ち切って低炭素社会へと大きくかじを切らなければいけないということを指摘されています。

そして、福田総理大臣はこの低炭素社会への移行は、負担というよりもむしろ新たな経済成長の機会ととらえるべきだということをおっしゃいまして、例えば太陽光発電の導入量を2030年までに現状の40倍に引き上げるといったことをはじめとしまして、エコビジネスとか良質な社会資本整備というものに対して官民の資金を流れやすくするために、いろんな基準とか仕組みとか、そういうものを整備する必要がある。あるいは、排出量取引とかカーボン・フットプリント制度なども試行的に導入をしていくともおっしゃっています。

昨日の全体会議の基調講演でも、デンマークのコニー・ヘデゴー気候エネルギー大臣はデンマークの例を取り上げられまして、過去25年間でデンマークの国内総生産GDPは70%ほど伸びていますけれども、エネルギーの消費はほとんど安定しているということで、さらにその上に、再生可能エネルギー、風力ですとか、そういう再生可能エネルギーは現在もう既に電力供給の28%を占めるに至っている。また、その世界の風力タービンの3分の1はデンマークの企業が製造しているということで、先導者、先行者としてのメリットを享受したということをおっしゃっておられます。

このように、今や低炭素社会に向けて技術とか社会や経済のシステムの革新をしていくということが強く求められていると思いますけれども、それでは、こういった環境ビジネスをどのように伸ばしていくべきなのか、技術の普及を加速していくべきなのかという点が一つ大きなポイントになると思いますし、さらに、その低炭素社会という目指すべき社会に向けて新たな経済成長という期待もあるわけですけれども、そのために具体的にだれが何をどのように始めるべきなのかということも明らかにしていく必要があろうかと思います。

そして、そのために、より具体的には政府や自治体、あるいは、企業、NGO、あるいは、消費者、市民の役割は何であろうか、相互に協力や連携をどのように進めるべきなのか、こういったような問題に私たちは答えを出していく必要があると思います。

この第1セッションにおきましては、この気候変動、低炭素社会への挑戦というテーマに焦点を当てまして、これから4名のパネリストの皆様にそれぞれのご経験に基づいてお考えを述べていただきたいと思います。

各パネリストの皆様には、初めにお一人15分ずつお話をいただきまして、その後、若干、5分程度の休憩を挟んだ上で、討議に移りたいと思います。また、会場から3名ほどの方にご質問やご意見をいただきたいと考えております。

このような進行をしたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いしたいと思います。

それでは、早速ですけれども、最初にモーゼス・ツォンさん、ご発言をお願いしたいと思います。

ツォン

私の気候変動、生物多様性保全、持続可能な開発についての個人的な経験に基づいたお話をさせていただきます。

500万年前、現在のインドがアジア大陸と衝突をしました。大陸同士の衝突事故によってヒマラヤ山脈が生まれ、また、アジアの四大大河が、つまり、揚子江、メコン川、サルウィン川、イラワジ川が55マイルという近さに集まっているわけです。このように、大河が集まったために巨大な渓谷ができています。そのうちの一つはグランドキャニオンの2倍の深さがあります。

本日、お話を申し上げたいのは雲南省北西部です。中国南東部です。美しい壮大な景色に恵まれたところでもあります。また、地球上最も価値のある場所の一つです。

地球上の10人に1人がこの四大大河に依存しています。また、この地域は中国の少数民族の約半分が暮らしています。中には、地球上最も貧しい人々もあります。ユキヒョウ、レッサーパンダ、黒首ツル、そして、雲南キンシコウなどを含む110種の希少種、絶滅危惧種が生息しています。地球上の多様性を象徴するような場所です。1,700以上の植物の種もあり、中国の漢方で使われている薬用植物の70%も生息しています。ですから、地球上の偉大な場所の一つに含められるべきであるわけです。

2002年、ネイチャー・コンサーバンシーに招かれ、雲南省北西部を訪問しました。この地域での保全の取り組みを見ました。1951年に設立されたアメリカのネイチャー・コンサーバンシーは現在30カ国以上で活動を行っています。生命が依存している土地、そして、水資源を守ろうとしています。世界で名だたる保全団体として、スタッフ4,000人を世界的に要しており、会員数は100万以上に上ります。

私は金融、投資の世界にこれまでずっと身を置いてきました。その訪問以前にはネイチャー・コンサーバンシーについても聞いたことがありませんでした。しかし、好奇心を持ってこの訪問に応じ、それ以降は、現在のように大きく考え方が変わるに至りました。

この最初の訪問以降は、私は持てる時間の20%をボランティアとしての時間に割き、資金集め、そして、意識向上のために努力をし、また、ネイチャー・コンサーバンシーのアジア太平洋理事会のメンバーとなっております。この理事会には30人のボランティアのアドバイザーがアジア太平洋、全球、そして、アメリカから参加しています。それぞれ政府あるいは企業での経験ある人々です。ですから、このネイチャー・コンサーバンシーの立場ということで本日はお話し申し上げたいと思います。

アジアの環境については、よいところもあれば悪いところもあります。

まず、よいところについて、生物多様性が最も豊富な地域、20地域のうち7つがアジア太平洋にあります。また、サンゴ礁の世界の種の90%がアジア太平洋地域にあり、そのうち80%がインドネシアにあります。中国は動植物の多様性では第3位の豊富さとなっています。オーストラリアはチョウ類の固有種がどの国にも多くあります。太平洋の小さな島諸国は多くの種が生息しており、そこにしかない固有種が多くあります。モンゴルには最後に残った手つかずの草原があります。世界で最大規模の草原、手つかずのものとしては最大規模で、ドイツ1カ国を上回る面積です。

次に、アジアの環境面でのそれほどよくない点です。

自然資産が世界で最も驚異にさらされています。1960年から80年の20年間、アジアは熱帯雨林の3分の1を失っています。破壊のペースはさらに加速しており、危険な状況に至っています。また、過去50年間、70%もサンゴ礁が劣化しています。現在の破壊のペースが続けば、あとわずか50年でこの地域のサンゴ礁半分が完全に破壊されてしまい、6000年かけて育ったものが失われてしまいます。

世界中の科学者は大量の絶滅が発生しているとしています。種や生息地が失われています。これまで5回の大規模な絶滅に匹敵すると言われています。過去の絶滅についてはさまざまな仮設が立てられていますが、今回の大規模絶滅については原因はほぼ間違いなく我々人類が原因です。

だからといって何なのかと思われるかもしれません。オランウータン、パンダ、トラ、鳥、そして、さまざまな植物がなくなってもどういう影響があるのか、また、影響が仮にあるとしても、時間や努力、そして、お金をかけて、木やサンゴ礁、動物、植物を守るのはいかがなものか、それよりも苦しんでいる人間を助けるのが先ではないか、また、自然保護区を設ける、そして、人間が入ってはいけないようにすると、しかも、そういった国ではまだかなりの比率の人口が貧困状態にある、それは許されることなのかという疑問を持つ人もあると思います。

それは、私たちが自然からあまりにも隔離されて暮らしているためにこのような疑問が出てくるのです。重要な問題であるということに無関心になっています。食べ物はプラスチックに包まれ、真空パックで販売されています。土もついていなければ、血も羽もうろこもついていません。

また、水資源、エネルギー源についても無関心になっています。そして、ごみや下水を出しています。水は栓をひねれば出てきますし、明かりも熱も冷房もスイッチをつければすぐに得られます。そして、ごみは捨てられ、下水は流されています。

このように、便利な世の中になりました。そして、何十億もの人類はそのために発展を遂げています。しかし、そのために、私たちは自然環境から切り離されてしまっています。自然環境の中に暮らしているにもかかわらずです。

欧米諸国では経済発展の経過、自然の伝統に大きな損害を及ぼしてきました。そして、わずかながら残っている手つかずの自然、これは大変貴重なものです。そして、それがそのほとんどが途上国に残っています。ということで、ジレンマに直面しています。途上国の人々も発展を推進して生活水準を引き上げたいと考えています。また、同時に、この貴重な環境を守っていかなければならないというジレンマです。

経済成長は確かに人類の生存には欠かせません。しかし、そのために農家が工場労働者となり、また、歩行者が運転手となっており、その間、環境が劣化しています。しかし、取り返しのつかない形で自然資源を破壊してしまうことになりますと、発展にとって結局は足を引っ張ることになります。この危害を抑えなければなりません。これは可能です。

しかし、豊かな国、貧しい国、それぞれの異なったニーズを認識しなければ可能ではありません。豊かな国々は解決策を提供することができる、しかし、それで貧困国が永久に貧困のままであるということであればうまくいかないでしょう。

したがって、ネイチャー・コンサーバンシーは、自然資産をアジア・太平洋地域で保全するための活動を行っていますが、今申し上げたような問題について、念頭に置いて取り組んでいきたいと考えています。なかなか難しいことではありますが、不可能ではないと思っています。そして、あらゆる方面からのサポートを必要とする取り組みでもあります。先進国からのサポートももちろん必要です。

そして、自然環境に直接依存している貧しい人々からのサポートも必要です。こういった人々は最も悪影響に直接的にさらされています。気候変動、そして、無制限な資源の破壊、利用の影響にさらされています。

1998年、コンサーバンシーは2,500人の調査を行いました。北京、上海、香港、台北、シンガポールの成人を調査対象としています。社会問題として最も重要なものを6つ挙げてもらいました。環境劣化、食糧価格高騰、犯罪、教育、失業、株価下落などが挙がりました。そして、環境破壊が一番重要だとされたのです。しかも、この調査を行ったのはアジア金融危機の最中でした。これは特筆に値する調査結果です。

また、大変意外なことに、政府もやはり環境を優先課題としています。経済混乱が当時発生していたにもかかわらずです。中国の当時の朱鎔基首相は1998年の大洪水についてこう述べています。この災害は少なくとも森林伐採を行ってきたためであるとしています。そして、その後、実際に木材伐採を各指定地域で禁止しています。

このような断固たる行動が必要です。単に話すだけではなく、行動をとることが重要です。そして、私はこのような行動によって感銘を受けました。雲南省北西部を訪問した際です。つまり、ネイチャー・コンサーバンシーが自然世界を精度の高い形でフォーカスして保護しようとし、保全しようとしている、その行動によって感銘を受けました。しかも、人間的な側面について決して忘れずにこれを行っていました。大変実践的な理念を持っているのがコンサーバンシーの考え方です。また、科学に基づいています。

しかも、対立を避けるアプローチをとっています。つまり、対立をするのではなく、協力を求めるのです。企業であれ、個人であれ、自然資源に依存している人々の協力を求める形です。

コンサーバンシーはまた意識向上も図ろうとしています。そして、制度面での能力を高め、地元の人々が保全をできるようにとしています。雲南省北西部では、若い女性が何時間も毎日木を集めなければいけないと聞きました。エネルギー源として木しかない。そして、木を燃やして調理をしたり暖房に使っています。一束の木材は1日しかもちません。高地にありますし、寒いことから、30トンものまきを毎年燃やすということになります、1世帯当たりです。

当然ながら、森林はどんどんと破壊されています。そして、そのために集落からは森林が遠ざかっており、女性は中には8時間もかけて歩かなければ木を集められない状態となっています。また、まきを燃やすことから、健康問題につながっています。5歳以下の子供の呼吸疾患ですが、換気の悪い建物の中で常に煙にさらされていることによります。

雲南省の北西部は一例に過ぎません。日常生活、必要なものを満たすために、いかに人間が環境に依存しているかです。しかしながら、その過程によって過剰に環境資源を使ってしまっています。