テーマ2生物多様性の未来
司会:鷲谷いづみ パネリスト:セバスチャン・ウィンクラー、エゼキエル・デンベ、岡島徳岳、庄司昭夫
鷲谷いづみ
東京大学大学院農学生命科学研究科教授
セバスチャン・ウィンクラー
国際NGO・カウントダウン2010事務局長
エゼキエル・デンベ
タンザニア国立公園群・企画開発局長
岡島徳岳
名古屋市東山植物園参与 前日本植物園協会長
庄司昭夫
株式会社アレフ社長
鷲谷
皆さん、こんにちは。今ご紹介にあずかりました東京大学の鷲谷です。きょうのこのセッションの司会を務めさせていただきますことを、保全生態学の分野の研究者として大変光栄に思っております。
生物多様性の保全と持続可能な利用は、気候の安定化を図ることとともに人類の持続可能性にとっては最も重大な問題なわけですけれども、日本ではまだまだ認識が十分とは言えません。
きょうは、この分野で専門的に活躍していらっしゃる4人のパネラーの方からお話を伺って、ディスカッションをすることによって日本の社会の中の生物多様性にかかわる認識がより深まり、広まっていくことを期待したいと思っております。
最初に、もうここにいらっしゃる皆様は、生物多様性は何かとかいうようなことはよくご存じだとは思うんですけれども、念のために、生物多様性というのは何なのか、どうしてそうやって重視しなければならないのかについて、確認をしておきたいと思います。
生物多様性という言葉ですが、これは環境保全を包括的に進めていく政策とか実践、それのためのキーワードだということです。
どのように定義されているかというと、この分野の国際的な枠組みでもある生物多様性条約では、あらゆる生物の間に見られる変異性であり、種内・種間及び生態系の多様性を含むと定義されています。
また、5月に日本では生物多様性基本法という、この分野の政策全体を統括するような基本的な法律ができましたが、その法律の中では、同様の定義ですが、さまざまな生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内にさまざまな差異が存在することとなっています。
このように、変異性とか差異、違いということを強調する定義になっているわけですが、今、世界全体で環境、それから社会も均質化をし、単純化していくという傾向があります。この生物多様性という言葉はそれとちょっと違う傾向を重視し、相互に違いがあり、それぞれの生き物が固有であるということ、独特であるということ、それからそれらで特徴づけられる地域などの固有性というようなものを尊ぶことを言外に含むような定義になっています。
じゃあ、なぜそれを守らなければいけないかということです。その生物多様性が、生態系サービス、あるいは「自然の恵み」という言葉であらわしてもいいかもしれませんけれども、私たちが心身ともに豊かで健やかな暮らしをしていくために必要なものの源になっているということです。それから、生態系があちこちで不健全化したり、持続可能ではない徴候が現れ、レジリエンスという言葉を最近よく聞くようになっていますけれども、それが失われているということが言われますが、生物多様性は生態系の健全性の指標になるものであるということ。それから、それらとも重なりあいますが、さまざまな価値――その価値の中には精神的なものなども含まれますが、そういう多様な価値の源になっているということです。
このように、ほんとうに多様な価値の源泉であるということゆえに重視しなければいけないわけですが、最近ではこのことをしっかりと評価するための試みなども随分進展してきています。そのときには、この中でも生態系サービスというキーワードによって、現状がどうなっているかを評価するわけです。
生態系サービスというものを使って私たちの自然環境、生態系を評価するに当たって、どういうものをサービスとしているか、それから人間の幸せ、あるいは福祉と言ってもいいですけれども、それとの関連がどうなっているか重要な視点となります。
これは国連のミレニアム生態系評価のとき、生態系サービスが評価の上で大事な概念となっていましたので、そのときに使われた概念図を報告書から引いてきたものです。このように、社会全体の多様な営みとも関係があり、持続可能性とかかわりの大きいさまざまな価値とかかわりのある概念だということをまず申し上げて、これからそれぞれのパネラーの皆さんのお話を伺っていくことにしたいと思います。
それでは、最初のプレゼンテーションをウィンクラー博士からお願いしたいと思います。
ウィンクラー
議長、ありがとうございます。パネルの皆様方、ご列席の皆様、今回、こちらに来られましてうれしく思っております。
といいますのも、気候変動と、それから生物多様性とまだまだやらなければいけないことがたくさんあります。私は、「カウントダウン2010」ということで、生物多様性というのは地上の生物の根本的な重要な問題であることを発信するのが仕事だと思っておりますので、まず、理解を深めていただくためにお話をさせていただきたいと思います。
お昼が終わった後ということで、皆様方お疲れかと思うんですけれども、きのうヘデゴーさんがおっしゃったことの演習をしたいと思います。これはいろいろな国々でやったものですけれど、日本で初めてやるものです。うまくいくかどうか、やってみようと思います。
ちょっと運動をしましょう。では、手を振ってください。そして手を組んでください。左手が上に来た人は手を挙げてください。
じゃあ、1回手を楽にして。目をつぶってください。朝、何を食べたか思い出してください。
同じ演習をもう1度しましょう。また手を組んでください。同じ手が上にきた人、手を挙げてください。うれしいです、日本でも同じですね。世界も同じでした。みんな、同じ手が上に来ました。
じゃあ、もう1回。今度は、無理に反対側の手が上にくるようにやってみてください。
この演習でわかるのは何かというと、ちょっと努力しなければなかなか癖は治らないということ。きのうも話があったと思います。努力しないと癖は治らない。でも、可能なのです。そういうことをして世界を守ろう、地球を守ろうということです。
こういう演習をやった後に、お話を進めたいと思います。もっと一般的な話として、生物可能性にどんな課題があるのか、2010年までのターゲットについてお話ししたいと思います。
まず、どんな課題があるのか、簡単に概観の説明をしたいと思います。現状はどういうことであるかについて、最近のスタンレポートがありましたけれども、2010年に向けて皆さんと何をやらなければいけないかということについて、共有したいと思います。特に、今度、2010年にCOPが名古屋で開かれますので、そこにどういうことを期待したいか。それからまた、C8サミットが7月にありますけれども、それに向けてのお話をしたいと思います。
きのうスリランカの方からお話がありまして、そこでもこのスライドが使われましたけれども、この概念は3つの柱から成っています。きのうもお話がありましたけれども、持続的な開発というものは社会、経済、そして環境という柱から成っています。しかし、現実はどうでしょう。経済の柱は金で、社会というのは銀ですが、一方、環境というのはあたかかも竹のように扱われて、倒れてしまっています。ここは考え直さなければいけないと思います。
生物多様性というのは、経済開発の根本にあります。基本です。文化に関してもそうです。そういう形で生物多様性を見ることによってアプローチを変えることができるのではないかと思います。つまり、天然資源の管理の仕方を変えていくわけです。これが概念図でした。
先ほど司会者の方からも生物多様性についての話がありましたけれども、種と遺伝子と生態系です。多くの人たちは自然について理解はしていますけれども、しかし、これは単に自然を保護しようというのではなくて、生物多様性条約というのは持続可能な利用ということをうたっております。そして衡平な分配ということについて、生物多様性の恩恵の衡平な分配ということも、この条約で語られています。
これは、私どもが現在やっている作業のスナップショットです。彼はパファン・ソフテックがやっているインド人でドイツ銀行の人ですが、彼は銀行家ということでこういう仕事をしました。去年、ドイツのハイリゲンで行われたG8でポツダム・イニシアティブが出されましたが、ドイツは生物多様性に関してスターのような報告書をつくるという約束をしました。なぜなら、経済的な話をしなければ、ECのIUCNが行動をとらなかったときにどれぐらいコストはかかるか、2010年のターゲットをミスしたらどうなるか、どんな価値があるのかということについて、意思決定者が理解できないからです。
平均して種の数がどれぐらい下がるかということについて、ここには12の主要なバイオムを書いています。生物群型ですが、驚かれるかもしれませんけれども、青いところは砂漠ですが、こちらには高い多様性があります。しかし、トレンドとしては17世紀の産業化以降、下がっています。
2050年にはどれぐらい種の数が減っているかというのをこのグラフで示しています。2000年はこんな形になっているのが見てとれます。赤い色は種の数が一番少ないところです。
次のシナリオを見てみましょう。これは2050年にはどうなっているかというのを示したものですが、赤い部分が増えております。特に沿海部、新興国で増えています。
先ほどのものに戻って、比較しましょう。どれぐらい効果が大きいか、見てください。これが2010年の状況で、これが2050年です。これからも資源に対して圧力がかかり続けるというわけです。
損失のスピードというものにも恐ろしいものがあります。見てください、この数字です。グローバルレベルと欧州レベルの比較をしています。2050年の予測ですが、ヨーロッパはもしかしたら2010年の目標は満たすかもしれません。といいますのも、欧州では生物多様性をたくさん失ってきていますから、そのスピードをスローダウンさせるということは達成できるわけですけれども、グローバルな視点で見た場合に、生物多様性はどんどん失われます。
それでは、違う目で見てみたいと思います。これはIUCNがつくっているレッドリストですけれども、8種のうちの1種類の鳥が絶滅に瀕しております。海の動物も3分の1の数が影響を受けています。両生類もそれだけ絶滅の危機に瀕しています。
これはWWFがつくっているワールド・エコロジカル・フットプリントです。地上のキャパシティーというと、星は1つしかないわけですから、どれだけの生物を支えられるかというのは決まっております。青と細い青がありますが、保護地域をつくるとこれだけのキャパシティーが地球にあるということをあらわしています。赤の線は現在の消費パターンを示しているのですが、地球の能力を超えてしまっているということです。
ということはどういうことかというと、グローバルな割り当てとして、人間として暮らすために、大体1人あたり2ヘクタール必要です。欧州のフットプリントはどうなっているかというと、欧州人は1人あたり6.3ヘクタールになっています。ということは、平均的なヨーロッパ人には地球が3つ必要だということ、アメリカ人であれば地球は6つ必要だということです。
で、最終的にどうなるかというと、ここでは持続可能ではないとしています。つまり、この危機を逆転させなければいけないということです。
これはエコロジカル・フットプリントをもっと詳細に見たものです。地球上でどれぐらいさまざまな食糧が使われているか、あるタンパク質をつくるためにどれぐらいの面積の土地が必要か、水がどれぐらい必要かというのを示したものです。
たくさんの問題がありますので、簡単な答などないわけです。しかし、暗い絵ばかりは描きたくありません。希望もあるということを申し上げたいのです。だからこそ私どものイニシアティブがあるのです。
保全コミュニティでは、今まではハルマゲドンが来るというようなことばかり言ってきました。そうでもしないと人々は関心を持ってくれなかったからなのですが、もっと夢を語らなければいけないのです。夢を持たなければスタートできません。人々に夢を提供することで、人々が関心を持ってくれるということです。
次のスライドで、今どういう状況にあるかということをお話しして、そして希望を皆様にお見せしたいと思います。
まず、初めて保全コミュニティに具体的なターゲットができました。2010年までに欧州レベルで生物多様性損失のスピードをスローダウンさせるということ、そして国際的なレベルでも2010年までにそのスピードを落とそうということを確定したのですが、これは環境大臣だけではなく、各国首脳が宣言を出したのです。運輸大臣やその他の大臣も、このターゲットに向けて活動しなければいけないということが決まったというわけです。
そして成功もおさめてきました。2010年の生物多様性についてのターゲットをミレニアム開発目標にできたのです。多くの国々では、自分たちの仕事をする際にミレニアム開発目標に向かってやっております。今まで、環境に関して生物多様性のターゲットは入っていませんでしたが、それが入ることによって貧困アジェンダにも絡んでくるわけです。これは非常に重要なアジェンダです。生物多様性というのは、貧困を緩和するためにも意味があるのです。
生物多様性条約で、サミットが2010年に開かれることになりました。その中では基本的に、7つの主要なポイントが語られることになります。まず、多様性の要素となるものの損失のスピードを落とすこと。持続的な利用を進めること。生態系の健全性を守ること。伝統的な知識やイノベーションなどを守ること。そして、公正で衡平な利益の配分等々です。




