テーマ3アジアの水問題
司会:渡辺斉 パネリスト:馬軍、ミングサン・カオサアット、トゥサール・シャー、嘉田由紀子
渡辺斉
名古屋学院大学商学部准教授
馬軍
中国・公衆と環境研究センター(IPE)代表
ミングサン・カオサアット
タイ・チェンマイ大学教授
トゥサール・シャー
スリランカ・国際水管理研究所(IWMI)上級顧問
嘉田由紀子
滋賀県知事
渡辺
「アジアの水問題」ということで、第3セッションを始めたいと思います。
私は今、大学に勤めていますけれども、3年ちょっと前までは朝日新聞に勤めていまして、世界各地の水の現場を見てきました。世界は今、3つの水の危機を抱えているということを感じるわけですね。1つは洪水、水害ですね。2つ目は水不足ですね。3つ目が水の汚染です。それが凝縮した形なのがアジアではないか。1つには、アジアは世界人口の半数を抱えている巨大な場所であり、その一方で、アジアは人口の多いわりには水資源が非常に乏しいところです。そういうアジアの問題を考えるということは、地球の問題を考えるうえで非常に大事なことではないかと思っています。
水の危機の背景は、いろいろなセッションでお話も出ましたけれども、気候変動と、それからもう一つは人間活動です。過剰な開発、過剰な水利用、そういう問題が背景にはあります。きょうのパネリストの方々のそれぞれ各地域の実情と取り組み、課題をお話し願う中で、水の危機に対して解決のヒントが導き出されるといいと思っております。
早速、パネリストの方に、中国、南アジア、東南アジア、そして日本というそれぞれの地域の現状と課題、取り組みについてお話をいただきたいと思います。
では、最初に馬軍さんからお願いします。
馬
渡辺先生から、さまざまな側面について列挙していただきました。水資源に関する課題、以前は洪水が何といっても第一の問題でありました。ところが、80年代以降、人口の増大、とりわけ経済規模が拡大したということで、水不足が一番の問題に取ってかわりました。そして、水質汚濁というのはもう一つの側面ということで、やはり同じく悪化しつつあります。きょうは水質汚濁の問題をより大きく取り上げたいと思いますが、ほかのさまざまな問題、水にかかわるさまざまな挑戦課題についても、質疑のときに喜んで取り上げさせていただきます。
まず、中国の経済開発、経済発展でありますが、何億人の人々が貧困から抜け出ることができました。そして、世界の工場と言われておりまして、中国国民に恩恵をもたらすだけではなく、欧米の消費者にも恩恵が行き渡っているかと思います。ところが、一方でそれが大きなプレッシャーを中国の脆弱な環境に及ぼしているということです。特に水資源が大きなプレッシャーをこうむっております。
推計でモニタリングされているものの6割が汚染されている。これらの推計はほとんど何も使えないぐらい汚染が進んでしまっております。それから、北西部の平原地帯などでは、6割ぐらい、もうほとんど使えない川になっているということです。
これは太湖、淡水湖では最も大きな湖でありまして、東部にあります。昨年はこうだったんですが、私が最近行ったところ、漁師たちも繁殖してしまった藻をひしゃくですくい取っているような状況でありました。暮らしがもう成り立たない、魚もいなくなってしまっているという状況です。300万人以上もの人が数日間にわたって水が手に入らない緊急事態が起こりました。
5番目に大きな湖、西湖でありますが、昨年私が行ったときにはこのような状態になっておりました。それから、南西部にある天池、こちらもひどい状況であります。琵琶湖も以前は重大な危機に陥ったときもあったでしょうが、それよりももっと悪い状況が今中国では見られるわけです。これが健康面でも大きなリスクを生んでおります。
3億人以上の農村の人口、まだ安全な飲み水が手に入らないでいるということです。水の供給、水源、大都市への水の供給ですけれども、どんどん悪化しつつあります。大きな健康リスク、健康被害、十分にまだ研究も進んでおりません。また、大気汚染、これも健康に大きな被害を及ぼしております。そして、それが水不足をさらに悪化させております。資源が限られているということ、そして特にきれいな水源、これが廃水、下水などでどんどん汚染されております。これは中国の地図ですが、赤い点、400ぐらいの都市が水不足になっている。これは乾燥した北だけではなく、湿度の高い南でもそうです。かなり汚染が進んでいるということをあらわしております。
2つ、水不足の問題に対処できる方法があります。1つは供給を増やすということ。2つ目は水の保全、より効率よい形で水を使うということです。この地図は2つの運河が今建設中であります。1,200キロの総延長の運河で、南水北調ということで揚子江から北に水を運ぼうということです。これは緊急策として救済策が既に始まっております。我々の理解では、だからといって持続可能なずっと続く解決策にはならない。すなわち水不足をすべて埋めるわけにはいかないということです。努力を続けなければなりません。
水質汚濁は社会不安も呼んでおります。ここで座り込んでいる人たちは汚染をするなと呼びかけているわけです。指導部ですが、いかに状況が深刻か、水に関する問題、環境問題、環境汚染の問題が深刻かということに注目し、その心構えを変えております。新しい戦略を立てております。すなわち科学的な方法で開発を進めようということです。より持続可能なバランスのとれた開発を進めていこうということです。初めてのことになりますが、省エネ、そして汚染の削減の目標を5カ年計画に盛り込みました。非常に野心的な目標であります。汚染ですけれども、5年間で10%減らそうということです。そして、省エネについては2割、効率化を図ろうということです。これは大変な挑戦課題であります。
といいますのも、まだまだガバナンスでも欠けている部分があるからです。すなわち執行が弱いと。法律や制度はでき上がっておりますけれども、執行実行がなかなか進まない。法制度も十分に問題に対処し切れていない。例えば環境にかかわる紛争、訴訟にも司法の分野では十分対応し切れていないということです。ですから、トップダウンの戦略を立てて執行、取り締まりを強化しようということです。法律や規制や政策をつくって、そして、一般の参加をより円滑化しようと。そして、ボトムアップ型に向けていこうということで、2003年初めての法律ができました。これは一般の国民の参加を呼びかけているものです。環境の意思決定に国民の参加を呼び込むということです。何千年もの歴史の中でこれは初めてのことであります。法律や規制、透明性の向上ということが叫ばれております。透明性の向上こそが第一歩になると、より意味ある形での参加を促すことになるということです。
こういった法的な枠組みがそろって、我々のような非営利団体は、国家的な水質汚濁のデータベースをつくることができました。これは公表されている政府のデータを使って水質汚濁、そして排水とか下水、そしてどういう違反者が地域ごとにいるのか、省、あるいは300以上の都市について調べております。これはこういう情報を国民に届けることによって、汚染管理がうまくいっているというメッセージを知らせたい、やはり地域社会、そして国民こそが一番関心を持っているはずですから。
さらに同じような大気汚染に関するデータベースも構築いたしました。これは英語でも見ることができます。ちょっとここでごらんに入れております。ですから、比較もできるということです。中国の各地指標をもとにNOXやSOXについて都市ごとに比較できるということです。大気汚染がどれほど進んでいるのか、大気の質がどうなっているのか。
それから、水質汚濁、そして大気汚染のデータベースですが、2万2,000以上もの違反の記録があるということです。今、中国のNGOと協力してGPS、グーグルアースなどを使って違反者をピンポイントで地図に載せようとしております。これだけの違反者がいる、クリックすると、どこに彼らがいるのかがわかると。そしてさらにクリックしますと情報が出てくるわけです。どの政府の文章を見れば、この工場がどの基準に違反しているのか、都市ごとに追って調べることができます。これは黄河の上流部分でありますけれども、違反者、汚染者がどこにいるのかわかります。かなり川に近い、水をかなり使っている、そして排水も出している、水質汚濁の基準を超えた汚染をしているということです。黄河はだからこそ先ほどカラフルな色がついていたわけです。法的に責任を持った形でしっかりと基準を守る必要があります。
東部ですけれども、揚子江デルタ、長江デルタでの違反者、汚染者をあらわしております。現実にはこうなっています。川、河川ですが、これは化学工場であります。この周辺の地域社会が被害を受けている、健康にも被害が出ております。もう報告されております。奇妙な病気が起こっているということです。こういった工場が立地しているようなところ、特に揚子江の上流ですが、この写真はグーグルアースからとったものです。この工場のそばに立ったときには全体像が見えなかったんですが、大きなダムがあって、いかにひどい状況に陥っているかわかります。揚子江の上流のほうに行きますと、こういった汚染が広がっているのがまざまざとわかります。それから、大気汚染のデータベースでもこういったことを調べることができます。汚染者で、煙突のサインであらわしております。現実はこうです。これは南西部、それから中央部、そして揚子江の川沿い、あるいは海口ですとか、三峡ダムですとか、いろいろなダムのそばとか、これは上海の工場であります。
ということで、こういったデータベースなどをつくることによってプレッシャーをかけることができた、公の認識を向上することができた、そして企業にも圧力をかけることになりました。これまでのところ、60社ぐらいが我々のオフィスに来て、いろいろ釈明をしております。是正措置を一緒に考えようということで、そのうち14社に今なっておりますが、第三者機関の監査を受け入れております。これは地元のNGOの監督のもとで7つの記録については公表し、そして問題が解決したということです。これがいいインセンティブになっている、例えば水のリサイクルもこれによって進めようということです。
さて、経済はますますグローバル化しているということで、そういう時代の中ではグローバルな環境のモニタリングが必要です。地場の企業もありますし、中小企業、大企業、そして地方の企業もありますし、多国籍企業もあるということです。100社以上の企業が実はリストに載っているんですが、水の基準、大気の基準の違反をしている企業であります。だからといって、責任をなすりつけるつもりはないんですが、ただ、事実として、グローバル化した経済の中では、企業は連鎖の中で弱い部分に移っていくということです。時には取り締まり執行が弱い、あるいは国民の意識も低いと見れば、きちっとやらなくなる。日本ではこんな行動は絶対とらないはずです。ところが中国では何が間違ったのか、こういうていたらくになってしまっている。もちろん彼らは説明できると思うんですが、中国への影響にとどまらず、この地域の各地に及ぶと思うんです、日本も含めて。そしてグローバルに影響が及ぶと思うんです。ですから、ぜひ皆様にお知らせしたかったんです。こういう事例が多々あるということです。ですから、一緒に解決に動かなければならないということです。
我々の希望としては、中国では透明性向上の規制の強化が行われております。新しいルールも決まりました。5月1日で汚染者に対しては排水のデータを開示しなければならないということで義務づけるということです。でないと、汚染者のリストに載る、そうすると、義務づけられるということです。あるいは自発的に、いい企業ならば勧奨されるということです。日系企業も先導的にこういうことをやってほしいと思います。このデータの開示のフォームをつくりました。企業の中にはこれに記入してくれているところもあります。これは大変うれしいことですが。
最後にサプライチェーンです。サプライチェーンマネジメントが重要な問題です。我々のリストに載っている企業の多くが多国籍企業でありますが、そうではなくて、地場の企業もあります。中小企業、そして大企業で地場企業もあります。いわゆる一般に公表して恥をかかせて是正してもらおうということにあまり飛びついてくれません。ですから、企業の名前をキーワードとして入れますと、記録が出てくるようにしました。この企業はこれまで環境基準という意味でこの三、四年、政府の記録の中でも悪い前歴であるかどうか、日系企業も含めて中国から多くのものを購入していると思いますので、汚染者をきちっとサプライチェーンの中で特定して、そういうところを排除してもらえるようにということです。
最後に申し上げたいのは、中国と日本、我々は近しい隣国でもあります。ですから、汚染管理、我々も努力をしております。他方、ぜひ希望としては、日本からも支援をいただきたい。そうすれば、問題をやがて乗り越えることができるでしょう。
渡辺
日本は高度成長期に大変な公害問題を出したわけです。馬さんも今おっしゃいましたけれども、水が汚染されるということは、水が不足するということです。今、世界では11億人の人が安全な水を飲めないと言われていますけれども、今、馬さんのお話では中国では3億人の人が安全な水が飲めない。これは仮に水があっても汚ければ、当然その水を飲めば病気になるわけですから、あっても使えないということですね。したがって、水をきれいにするということは非常に大事だと思うんですけれども、改めて今のお話は、特にデータベースのお話は大変貴重なお話だったんではないかと思います。
では、続きまして、ミングサン・カオサアットさんにお願いします。




